介護施設の管理者を悩ませているのが夜勤の勤務体制です。人数不足で同じ従業員に何度も勤務させたいと考えることもあるでしょう。しかし、法律などで定められたルールを破ることはおすすめできません。この記事では、管理者が押さえておきたい夜勤のルール、勤務体制別にシフトに入れる回数の目安などを解説しています。以下の情報を参考にすれば、どのような点に配慮して従業員を配置すればよいかわかるはずです。お悩みの方は参考にしてください。
そもそも夜勤は労働基準法でどのように定められている?
現在では、労働基準法などで夜勤に関するいくつかのルールが定められています。労働時間などはどのようになっているのでしょうか。
夜勤の労働時間
1日の労働時間は原則8時間(労働基準法)です。しかし、2交代制を採用する介護施設の夜勤では16時間勤務になることが少なくありません。日本医療労働組合連合会が142施設4,075人を対象に実施した「2021年介護施設夜勤実態調査」によると、8割以上の施設が2交代制を採用しています。うち80.5%が16時間以上の2交代制となっています。[1]
原則8時間の労働時間とされている中で、16時間以上の勤務が行われている理由は変形労働時間制が認められているからです。厚生労働省は変形労働時間制を次のように説明しています。
変形労働時間制は、労使協定または就業規則等において定めることにより、一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定の労働時間を超えない範囲内において、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができます。「変形労働時間制」には、(1)1ヶ月単位、(2)1年単位、(3)1週間単位のものがあります。
引用:厚生労働省「労働時間・休日に関する主な制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/eisakunitsuite/
bunya/koyou_roudou/roudoukijun/
roudouzikan/index.htm
したがって、変形労働時間制を採用している介護施設では、1日8時間を超えて勤務をすることができるのです。ただし、この場合も労働時間の制限がなくなるわけではありません。
16時間勤務などでは、基本的に日をまたいで勤務することになります。「午前0時を超えると2日間の勤務になるのでは?」と考えてしまいがちですが、日をまたいでも勤務日が2日間に分かれることはありません。このようなケースでは、当該勤務は始業時刻の属する日の労働とすると定められているからです。[2]例えば、4月10日の午後4時〜4月11日の午前9時まで勤務した場合、始業時刻が属する4月10日の勤務(勤務日数は1日)となります。労働時間とあわせて押さえておきたいポイントです。
深夜労働の制限
変形労働時間制を採用していても、すべての従業員を同じように夜勤のシフトに組み込めるわけではありません。一定の条件に該当する労働者が請求した場合、当該労働者に深夜労働をさせることは基本的にできないからです(午後10時から午前5時まで)。対象・条件として次のものがあげられます。[3]
【対象】
- ・小学校就学の始期に達する前の子を養育する労働者
- ・要介護状態にある家族を介護する労働者
これらに該当する従業員が次の条件に当てはまらない場合、深夜業(午後10時〜午前5時)は制限されます。
【条件】
- ・当該事業主に雇用されている期間が1年未満
- ・深夜に常態として子を保育(家族を介護)できる同居の家族などがいる
- ・請求できない合理的な理由がある労働者として厚生労働省令で定めがある
簡単にまとめると、現在の事業主に1年以上雇用されている未就学の子を養育している労働者、現在の事業主に1年以上雇用されている要介護状態の家族を介護している労働者から請求があった場合、深夜業は制限されます。ただし、1週間あたりの所定労働日数が2日以下、所定労働時間のすべてが深夜に該当する労働者は対象から除外されます。また、事業の正常な運営を妨げると判断されるときもこの限りではありません。
ちなみに、一般的な介護施設の人員配置基準は3:1となっていますが、夜間はこれよりも少なくすることができます。例えば、介護付き有料老人ホームにおける夜間の人員は1名以上となっています。十分な人員を確保できない場合は、この点を意識するとよいかもしれません。ICT化による業務の効率化を進めると、少ない人数でも対処しやすくなります。
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夜勤協定の締結による例外
夜勤に関する詳細なルールは、介護施設で異なることがあります。介護施設の中には、夜勤協定を締結しているところがあるからです。同協定は、労使間で合意した夜勤に関する制限をまとめたものといえるでしょう。基本的には、労働者を過度な負担から守るために締結されます。
意外かもしれませんが、現在のところ介護職がシフトに入れる夜勤の上限を定めた法律はありません。したがって、協定で1カ月あたりの上限回数などを定めることが、介護職の負担を減らす現実的な対応策となります(同協定で例外的なルールを定められると考えることもできます)。
日本医療労働組合連合会が実施した「2021年介護施設夜勤実態調査」によると、2交代制を採用している施設の夜勤協定回数は平均5.0回、3交代制を採用している施設の夜勤協定回数は平均7.5日です。ボリュームゾーンは2交代制が4回、3交代制が8回となっています。[4]
ちなみに、同協定を締結している施設の割合は62.8%(129施設中81施設)です。施設別では、老人保健施設や看護小規模多機能型居住介護で割合が高くなっています。一方で、特別養護老人ホームは64.7%が同協定を締結していません。働く環境を整えることで、競合施設と差別化できる可能性があります。[5]
介護職の勤務形態による夜勤回数の違い
公益財団法人 介護労働安定センターが発表している労働者調査「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」によると、深夜勤務の回数で割合が最も高いのは1カ月あたり「5回以上7回未満(35.6%)」です。ここに「3回以上5回未満(27.0%)」「7回以上9回未満(12.7%)」が続きます。ちなみに、平均回数は5.1回です。[7]具体的な夜勤回数は、勤務形態などでも異なります。ここからは、勤務形態別に1カ月あたりの夜勤回数の目安を紹介します。
夜勤専従
日勤は行わず夜勤だけ行う働き方です。心身の負担が大きいように思えますが、実際に働いてみると2交代制・3交代制よりも生活のリズムを整えやすいため働きやすいと感じる場合があります。夜勤専従は、ロングとショートにわかれます。ロングは16時間勤務(午後4時〜翌日午前8時など)、ショートは8時間勤務(午後22時〜翌日7時など)を基本的に指します。
「2021年介護施設夜勤実態調査」によると、介護施設は16時間以上の2交代制が中心です。[8]この場合、夜勤専従の勤務回数は1カ月あたり10回前後と考えられます。一定の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間(特例事業所は週44時間)を超えないように調整しなければならないからです。
2交代制
24時間を日勤帯と夜勤帯にわけて考える勤務形態です。日勤帯は午前8時〜午後5時、夜勤帯は午後4時30分〜翌午前9時のような割振りになります。つまり、2交代制は16時間勤務が基本です。夜勤専従以外の従業員は、基本的に日勤と夜勤を行います。
「2021年介護施設夜勤実態調査」によると、2交代制における平均回数は4.3回です。施設別にみると、グループホーム4.9回、単独型短期入所施設4.6回、医療介護員4.6回、特別養護老人ホーム4.3回、老人保健施設4.2回などとなっています。グループホーム、単独型短期入所施設は、過去の結果でも回数が多くなっています。[9]2交代制では、1カ月あたり4回程度の夜勤が目安といえるでしょう。
3交代制
24時間を日勤帯・準夜帯・夜勤帯に分けて考える勤務体制です。日勤帯は午前8時15分〜午後5時00分、準夜勤帯は午後15時45分〜翌午前0時30分、夜勤帯は午後0時00分〜午前8時45分のような割振りになります。3交代制の勤務時間は、原則8時間です。
「2021年介護施設夜勤実態調査」によると、3交代制における平均日数は6.3日です。施設別の平均日数は、特別養護老人ホーム5.3日、老人保健施設7.1日、単独型短期入所施設6.2日、介護医療院7.6日などとなっています。老人保健施設と介護医療院は、前年度も7日を超えています。[10]3交代制では、1カ月あたり6日程度の夜勤が目安といえるでしょう。